県立春日山高等学校の秋が真っ盛り。

ハレルヤ!

体育祭を晴天で迎えた校舎に、華々しい飾り付けと音声が賑やかに揺れる。
『体育祭恒例!各組応援団と応援団部による応援合戦でーす!!』
昼近い時間のプログラムに、歓声が一際高く上がった。
そんな中、出番待ちのテント内で一都がビクビクと外を伺う。
「……何でだ…何で高校の体育祭なのに…こんなに一般客が多いんだよ!?」
「プロのカメラマンもいるらしいぜ…!」
同じく隣でビクビクと震える透。
2人の後ろ姿に、彼らが脅える原因となった男がカカカッと笑った。
「何せ俺達がいるからな♪」
「営業しました」
振り返ると、そこには応援団服姿も勇ましい烈人と、何故か同じ格好が違う風に似合っている千尋が。
他にも今までこんな団員さんがいたんですか…!?という顔ぶれが揃っていたのだが。
「何で俺達だけ女装なんですか!?」
「暴れるな、可愛いあんよは外で晒せ」
「営業って何ですか!?」
「毎年写真がバカ売れ〜」
何を言ってもニコニコな2人に、他の人々に救いを求めても。
「あ、俺は千尋に弱みを握られてるから、パス」
「写真の売り上げで盛大な打ち上げしような♪」
「これやると文化祭までに絶対彼女出来るんだよ」
長続きしない癖に、と呟いた一都の頭はスコーンと気持ちよく叩かれた。
「俺達も団服が良いです!」
「時既に遅し!男なら覚悟を決めやがれ!」
「こんな格好で男を決められません!!!」
烈人に泣いてすがる後輩2人の姿を、千尋がデジカメでしっかり激写していた。
「これも売れるなぁ」と嬉しそうな悪魔に、もう2人は何も言えなくなるのだった。

『さぁて皆様お待ちかね!次はいよいよ大本命、我が校の誇るイケメン軍団応援団部の演技で〜〜っす!!』
放送の声に、せっせとタンクを背負ってコーヒー販売をしていた渋谷が「お?」と顔を上げた。
姉・典子の制服を貸した一都が見られるではないか。
「ひひ、スカート短くしておいたからなぁ」
勿論、烈人の命令である。
「こんなにしたらパンツ見えちゃうわよ」と姉は呆れつつも協力してくれた。
さてさて、どんな調子に仕上がってますか…とステージとなるグラウンドを覗いてみると。


そこに現れたのは、校内のイケメンを集めたようなオールスター軍団と。
「きゃ〜〜っ白い〜〜〜〜っ」
「細い〜〜〜〜〜っっ」
「可愛い〜〜〜〜っ」
『我が校の応援団には、勿論女子団員はおりませーん!!!』
黄色い歓声に煽る放送で集まる注目。
おめでとう。
渋谷は小さく拍手した。
一都と透の女子制服姿は、そこらの女の子よりも可愛く仕上がっていた。


白いのは足だけじゃなくて、彼らの顔色も、だったが。


流石の応援団。
だがしかし、結果発表は意外な形に落ち着いた。
何と、大喝采を浴びた応援団が、総合2位だったのである。
結果発表がされると会場全体からブーイングが上がったのだが、理由はすぐに判った。


『男子生徒票1位・女子生徒票1位・一般票1位・職員票6位・PTA票最下位』

「毎年教員とPTA受けは悪いんだよな〜」
かっかっかっと残念そうでもなく笑う烈人に、千尋も「伝統だね」と頷いてみせる。
格好良いのは確かなのだが、いささか不良色が強く見えるらしい。
「いやー残念だったな、1位になったらアンコール出演させたろうと思ったんだが」
「冗談じゃありませんよ!!」
ぎゃーっと羞恥の極みから顔を真っ赤に染めた一都と透の2人。
彼らは出番が終わるとすぐにテント内に駆け戻り、男に戻る為の着替えを開始していた。
とにかく着替えないと落ち着かない。
落ち着かないと思考も働かない。
逃げたい逃げたいとお経の様に唱える2人を面白そうに眺めて、烈人が「さて」と立ち上がった。
「俺達も着替えっか」
「そうだね」
頷き合う2人に、他の団員達もそそくさと着替えを開始している。
彼らが急ぐ必要はなかろうに…と不思議顔の後輩に、彼らはこの学校の伝統をもう1つ教えてくれた。
それは。


『はい、皆さんカメラのご用意は引き続き大丈夫でしょうか?続きますは、我が校伝統の…2年生による和装パレードで〜〜〜っす!』
『盆踊りだろうが!』
『あ痛っ』
能天気な放送に教師のツッコミが入っている。
漸く男に戻れた一都と透は、渋谷から労いのコーヒーを貰いながら(有料)何が起こるのかと待っていると。
ワッという歓声と共に、グラウンドに入ってきたのは。
「どーもー!」
浴衣に甚平に着物の軍団だった。

グラウンドが一気に華やかになる。
和装の軍団がトラックをぐるりと回って、音頭に合わせて踊っている。
「うわぁ、着物だよ…」
「えーこんなんやるのか!」
2人とも夏祭りの様な学校のグラウンドに目を丸くした。
ぎゃーっと一段と高い歓声が上がった方を観ると、そこには甚平姿の烈人と。
「千尋先輩?」
「いや、あれ…保坂先輩だ!」
「どっち!?」
一都の脳裏を過るのは、メイク教室主催の保坂優(兄)だったが。
「弟の方」
透の声にホッとして視線を向けると、烈人と同じく甚平姿の蓮の姿があった。
しかも、その柄が。

「やだー先輩ったら向日葵〜〜〜〜っっ!」
「おうよ、可愛いだろ?」
「烈人さんも格好良い〜〜〜っっ!!」
「男は渋くいかなきゃな」
向日葵柄の能天気な甚平の横に、銀糸の竜の刺繍が入った甚平姿の烈人。
わざわざ背中合わせにポーズを作る2人に、フラッシュの雨あられだ。
「…慣れてる」
「凄いな」
そのサービス精神なのか何なのか判らないポーズに、一都がうんざりとしていると、今度は会場全体がどよめいた。
放送席があるテントの方でも、何事かとPTAや教師達が腰を上げていた。
そこに現れたのは。


「じゃーん、お触り禁止よ♪」
花魁姿の、保坂優(兄)だった。


派手な髪飾り、白塗りの顔、豪奢な帯に引きずりそうな着物、高下駄。
どこから用意したんだという姿は、まるで花魁。
「う、うわぁ」
凄い、という声しか出ない。
何だか凄いというか、凄まじい。
ちゃんと禿役が2名いて、彼ら(?)が着物を持ってサポートしている。
何だこれは、仮装行列か。

しゃなりしゃなりと歩く保坂兄に、観客もただただ呆然と見送るしかない。
「うふふ、見蕩れちゃって」
大きな扇子を振りながら、一都に気付いた彼が投げキッスとウィンクをしてくれた。
飛んできた光線に、一都が慌てて立ち上がり手で払う。
無言。
ただ必死に追い返そうと払う。
その一生懸命な姿は、透の涙を誘った。
が、誘っただけで助けはしない。
そんな事をやっていると、またもや上がる歓声。
今度は何だと思ったら。

「…ち、千尋先輩だ!」
「し、新選組ぃ!?」
浅黄に山形の白抜きが入った羽織に、鉢金、下駄に刀とくれば、そこは幕末の京の都。
どうやら団員達も何人か同じ姿になっているらしい。
「ふっ…烈人を取り締まりに来たよ」
そう千尋が刀を抜きながら言うと、爆発的な黄色い嬌声が上がった。
きゃーきゃーなんてものじゃない、ぎゃーぎゃーだ。
そして走る千尋が烈人と保坂(弟)に斬り掛かる横を、保坂(兄)の花魁道中が通り過ぎて行く。
更には他の普通に浴衣を着て踊っている生徒もいて。


「…これ、盆踊りだってさ」
「あ、鬼平だ」
プログラムを取り出す透の声に、一都は「ふーん」と頷いた。
2年生が毎年行う、盆踊り。
という事は、来年自分たちもするのだろう。
という事は。


「………俺達も、何かさせられるんだろうな…」
「あぁ、来年って先輩たちいるんだぁ…」
今からちょっと泣きそうな2人だった。


体育祭が終われば、今度は文化祭があるのだが。
その前に、校内ではちょっとした騒ぎが起きていた。

無事、渋谷に借りていた制服を返した一都に、透が血相を変えて飛びついてくる。
背後からタックル気味の突撃を受けて、一都が階段から落ちそうになるのを透が救ってくれた。
「危ねぇな、気をつけろよ!」
「お前が突き飛ばしたんだろうが!!」
「それどころじゃねぇよ!」
好き勝手な透に引きずられて、一都が辿り着いたのは下駄箱近くの掲示板。
生徒の通りが最も多いところだ。
そこに、写真が貼り出されている。
「あー体育祭の…!」
自分で言って、自分で気付いたらしい。
一都は人込みをかき分けて掲示板の前まで走った。
そして、息を飲んだ。


「現在注文数NO1!」と紹介されている、絶賛焼き増し注文受付中の写真とは。


「お、俺の…っっ!?」


震える一都の肩を、透がポンと叩いた。
それは、一都の女子制服姿の。


しかも、パンチラしている写真であった。


「何だこれ〜〜〜〜〜〜っっ!?」
ぎゃ〜〜〜〜っっと叫んでどこかへと走り去って行く一都に、透は思った。
「お前の不幸はそこだけじゃないんだな」
何と、現在の注文数は450枚越え。
ちなみにこの学校の生徒数は600名弱。


「お前の写真、女以外にも売れてます…!」


可哀想に…と思う透だったが、それは口には出さなかった。
何せ、自分の女装写真だって、現在300枚越えの注文数。
そろそろ半数を超えてしまいます。
「……ははん」
透は乾いた笑みをこぼして。

「一都ぉお〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
やっぱりウワーンと泣きながら一都の後を追いかけるのだった。


「今年の打ち上げも盛大に出来そうだね♪」
「可愛い後輩を持つと幸せだな」
2人の叫び声を聞きながら、烈人と千尋が楽しそうに午後のお茶を楽しんでいた。










初出…2008.10.30☆来夢
実話モリモリ(笑)

□ブラウザバックプリーズ□

実在の人物・団体・地域などに一切関係ありません。フィクションの塊です。著作者は来夢です。無断転載禁止です。